Keikoの短歌日乗〈4〉
Keikoの短歌日乗〈4〉
2023.03.14
短歌がNHKの番組で大きく取り上げられた。2月27日(月)の「プロフェッショナル仕事の流儀」で俵万智さんの作歌現場が紹介され、3月14日(火)の「クローズアップ現代」ではインターネット上に投稿される若年層の短歌を東直子さんが解説していた。どちらも上手く編集され、「短歌ブーム」がどういう場所でどういう要請によって広がっているのか解かったように思う。「クローズアップ現代」で紹介された歌は、71歳のわたしが読んでも澄んだ言葉が心地よくふんわりと胸に落ちた。
にぎやかな四人が乗車して限りなく透明になる運転手 岡本真帆
サバンナの夜明けのような車両基地ライオン色の冬のひかりだ 杜崎ひらく
ほうっ!と思うのは、言葉が、作者の心を通過する一瞬の感覚を軽やかにテンポよく掬いとっていることだ。強く自己を主張するのではなく、同時代を生きる誰かに呼びかける。口語をことさら意識させることもなく、すんなりと自然に言葉が定型におさまっている。近代短歌が追求してきた〈私〉や〈生活〉の臭いを、いとも簡単に脱ぎ捨てたといった趣である。時代の変化とともに短歌も大きな転換を果たそうとしているのが分かる。
担当している短歌教室で、今日は第34回歌壇賞受賞作品「彼岸へ」を読んだ。作者は獣医をめざして在学中の、こちらも若い作者である。
治す牛は北に、解剖する牛は南に繋がれている中庭 久永草太
気を付けて刑法上は器物でもそいつ吠えたり愛したりする
このような歌で意見が熱く交わされた。言葉も内容も重く、読者は大きな社会問題を突きつけられ、しばし命について考え込んでしまう。教室の受講者は中高年だから知見が広く、命にどう向き合うかという主題は、経験を語り意見を交換することで、読みがさらに深まっていった。
「短歌ブーム」という言葉をはじめて聞いたとき、わたしは所詮ブームにすぎないだろうと思ったものだ。が、そうではなかった。その向こうには、個々に抱いている思いを共有したいという切実な時代の分厚い要請があるのだと知った。番組では若年層に光があたっていたが、年齢や性別に関わりなくコミュニケーションツールとしての短歌形式が求められているのだろう。古来、それも短歌形式の特質である。(2023.03.14)